2枚の壁によって環境を繋げる

敷地は松山市内の都市公園の麓に位置する。公園の頂上は展望台やイベント広場といった市民の憩いの場があるため、北側の緑豊かな風景の中に利用者が往来している。敷地の南東側を見れば松山市内が一望できるが、周辺は住宅や倉庫や店舗などが点在していた。この多方向からの視線をゆるやかに調整し、敷地が持つ魅力を最大限に享受できる空間を目指した。
敷地形状は南北に長く、東西の間口も8mほどあるが、がけ地という条件からセットバックが必要となり、建物は必然的に南北に細く伸びる構成となった。その南北方向に２枚の壁を立て、周辺建物からの視線が重ならない位置まで壁をスライドさせることで、松山市内の風景へと視線が導かれた。さらに生活の主体を2階とすることで公園側からの視線をずらし、北西方向の緑豊かな風景も取り込むことができた。構造は木造を採用し、上下階を通した３つの壁柱に水平力を負担させることで、南東方向に最大限の開口を確保している。屋根形状は片流れとし、南方向に軒を深く伸ばして開口高さを絞ることで包容感のある空間とした。
２枚の壁をスライドさせるという単純な操作によって環境の魅力を最大限に引き出し、都市の眺望と山並みの景色を取り込んだ住宅である。